家賃滞納と建物明渡しの正しい進め方|大家さん向け
執筆:弁護士 三浦正人(神奈川県弁護士会)|公開:2026年8月28日
もう3か月、家賃が入っていない。電話にも出ない。それでも、鍵を替えることだけはしないでください——。腹立たしいお気持ちはもっともですが、正しい手順こそが、結局いちばん早くて安い解決につながります。
【要点】家賃滞納への対応は、催告→契約解除→明渡訴訟→強制執行という法律の段取りを踏むのが結局いちばんの近道です。鍵の交換・荷物の搬出・無断立入りなどの「自力救済」は法律上禁止されており、逆に貸主が損害賠償を負うリスクがあります。滞納の初期に動くほど、回収の見込みも高くなります。
やってはいけないこと|自力救済の禁止
どれほど滞納が続いていても、次の行為は原則違法と評価されるおそれがあり、逆に借主から損害賠償を請求される火種になります。
- 鍵を交換して借主を締め出す
- 室内に立ち入って荷物を搬出・処分する
- 電気・ガス・水道を止めるよう働きかける
- 深夜早朝の取立てや、玄関先への貼り紙などの嫌がらせ的督促
「自分の物件なのに」というお気持ちは当然ですが、日本の法律は自力救済を認めていません。正しい手順で進めることが、結果的に最速・最安の解決になります。
正しい進め方|4つのステップ
- 催告(支払いの督促):内容証明郵便で、滞納額と支払期限を明示して支払いを求めます。ここで支払われれば解決です。分割合意をする場合は、合意書を公正証書にしておくと不履行時に強制執行しやすくなります。
- 契約解除:相当期間を定めた催告をしても支払われない場合、賃貸借契約を解除します。実務では滞納3か月分程度が信頼関係破壊の目安といわれますが、事案ごとの事情(過去の滞納歴・支払姿勢など)で判断されます。
- 建物明渡請求訴訟:解除後も退去しない場合は、明渡しと未払賃料の支払いを求めて提訴します。不動産所在地の裁判所にも提起でき、平塚市内の物件なら請求額に応じて平塚簡易裁判所または横浜地方裁判所小田原支部が窓口になるのが一般的です。借主が争わなければ数か月で判決に至ることが多く、和解(明渡し時期を区切って合意)で早期解決する例も多くあります。
- 強制執行:判決や和解調書があっても退去しない場合、裁判所の執行官による明渡しの強制執行を申し立てます。執行補助業者の費用等がかかるため、その手前の交渉で退去させられるかが費用を左右します。
回収の現実と「損切り」の考え方
未払賃料は判決を取れば連帯保証人や借主の財産に強制執行できますが、資力のない借主からの回収には限界があるのも現実です。大家さんにとっての実質的な損害は「滞納家賃」よりも「空室にできない期間の逸失賃料」であることが多く、いかに早く物件を取り戻して次の入居者に貸すかという視点で方針を組むのが合理的です。当事務所では、回収可能性の見立てを含めて、費用倒れにならない進め方をご提案します。
予防策|次の契約から見直せること
- 個人の連帯保証人には極度額を定める(2020年民法改正後の契約では必須)
- 家賃保証会社の利用を入居条件にする
- 滞納1か月目から機械的に督促する運用を作る(初動の遅れが傷を深くします)
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よくあるご質問
- Q. 何か月分の滞納があれば解除できますか?
- A. 一律の基準はありませんが、催告しても支払われない滞納3か月分程度が実務上の目安といわれます。解除のタイミングは慎重に。
- Q. 借主が出ていったのに荷物が残っています。処分してよいですか?
- A. 勝手な処分は損害賠償のリスクがあります。合意書か強制執行の手続で処理するのが安全です。
- Q. 連帯保証人に請求できますか?
- A. できます。ただし2020年4月以降の契約では極度額の範囲内です。契約書の確認が出発点です。
執筆:弁護士 三浦正人(神奈川県弁護士会/三浦総合法律事務所・JR平塚駅西口徒歩1分)
本コラムは一般的な情報のご案内です。個別の事案の見通しは、ご相談のうえでお伝えします。記載の法令・運用は2026年8月時点の情報です。